
後座の床の花(黄色の小菊と矢筈ススキ)
(つづき)
銅鑼の音で後入りすると、「九日舟中」の御軸は釣り舟花入(韓国の杼)に変わっていました。
舟で揚子江(長江?)を下るのでしょうか?
・・・そう思うと、黄色の小菊が舟中で寄り添い、秋の風情を楽しむ主客一同のようにも見えてきました。
中立の時に心配だった火相と湯相も調っていて、水屋の3人で力を合わせたことでしょう・・・。
濃茶点前が静かに始まりました。
客一同、固唾をのむようにKさんのお点前を見守っています。
緊張されていたと思うのですが、いつものようにすらすら流れるように茶入や茶杓が清められていきました。
5人分の濃茶を練ることは滅多に無いことなので、2杓目の湯を入れるときに
「もう少し湯を足してください」とアドバイスしました。
茶席中に茶香が馥郁と薫りたち、
「とっても美味しく頂戴しています」とお正客さま。
「(わぁ~!)よく練れていて美味しいです!」と次客KTさんからも声なき歓声が上がりました。
(さぞや安堵されたことでしょう・・・)
濃茶は「松花の昔」(小山園)です。
大ぶりの赤楽茶碗はお持ち出しで、本阿弥光悦の「毘沙門堂」写しで祥悦造。
口まわりを覆う白雲のような釉薬の景色、胴の荒々しい削りがにわかに降り出した時雨を連想させ、毘沙門堂(京都・山科)の華麗な紅葉が頭の中を横切っていきました。

赤楽茶碗の他にも、初めての茶事を記念して購入されたという茶入が目を惹き、早速Oさまがお尋ねしてくださいました。
肩衝茶入は萩焼の岡田裕作、なだらかな肩の形状や、乳白色の釉薬が醸し出す微妙な色合いが印象に残りました。
特別注文されたという仕覆は織部緞子、裏地は珍しい玉虫海気、仕覆にもお心入れを感じます。
これからKさんの茶事で大活躍してくれることでしょう。

つづき薄茶となり、煙草盆と干菓子が運ばれました。
半東Uさんがお点前を途中で交代し、Kさんからお道具のこと、「九日舟中」の書のお話などをゆっくり伺うことが出来ました。
書の事はよくわかりませんが、行書体で長い筆で書いたそうです。
薄茶になると、一同すっかり打ち解けてお話も弾み、直ぐに終わってしまうのが惜しいようでした。
台風21号や北海道地震の直後でしたので、Kさんのお蔭でこのような充実した時間を過ごせることが有難く、巡り合った諸々のご縁に感謝しました。

最後になりましたが、Kさん、茶事のご成功、誠におめでとうございます!
これも日頃のたゆまぬ努力の賜物と存じます。
きっと今回の茶事の経験はKさんの宝物になることでしょう。
反省点は多々あると思いますが、次回の宿題にしてください。
お正客Oさま始め、社中の皆さまがご亭主を温かく見守って、力を合わせて後押ししてくださったのですから、これに勝るものはないのでは・・・と思います。

この貴重な経験を糧として、これからもお茶の道をゆっくり楽しみながら歩んでくださいね。

ある日の稽古風景 (茶事の道具を使ってつづき薄茶)
忘備録として会記を記します。
待合
床 「万古清風」 前大徳 積応師
煙草盆 春慶塗香座間透
火入 染付 冠手
本席(初座)
床 掛物「九日舟中」 聡美筆
風炉 唐銅道安 一ノ瀬宗和造
釜 桐文真形 高橋敬典造
炭斗 淡々斎好み蛍籠
羽根 シマフクロウ
火箸 以岡山城大手門古釘
灰器 琉球焼
香合 黒柿割香合 兎蒔絵 中林星山作
本席(後座)
床 花 黄色小菊 矢筈ススキ
花入 韓国製・杼(ひ)の釣り舟
棚 桐木地丸卓
水指 高取 十三代八仙
茶入 肩衝 萩焼窯変 岡田裕造
仕覆 織部緞子 (裏地 玉虫海気)
茶碗 赤楽 光悦「毘沙門堂」写 祥悦造
茶杓 銘「寧」(ねい) 染谷英明作
棗 鵬雲斎好み三景棗 竹内幸斎作
茶碗(薄茶) ①祥瑞 三代竹泉造 ②「花篭」 押小路窯 ③ 信楽 鵬志堂イサム造
蓋置 尾戸焼 山水画
建水 赤膚焼
濃茶は「松花之昔」(小山園)、薄茶は「金輪」(小山園)です。
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