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初めて・・・「重九の茶事」 その1

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9月9日、「重九(ちょうく)の茶事」へお招き頂きました。
ご亭主は暁庵社中のKさん、初めて亭主を務める初陣の茶事(いいなぁ~!)です。
Kさんは暁庵の茶道教室へ入門されてから3年余ですが、その間、客、半東見習い、半東、茶事の懐石までの亭主など、お点前の稽古だけでなく茶事の経験を少しずつ積み上げてきました。

「そろそろ茶事の亭主に挑戦してみませんか?
 今までお稽古や茶事の経験をしてきたのですから大丈夫、がんばってみませんか?
 Kさんにとって貴重な経験になると思いますので・・・」

茶事の日を9月9日に決めたのは7月のことでした。
「重陽の日に詠んだ「九日舟中」という、汪時元(おう じげん)の五言絶句の掛物があります。
 拙い書でだいぶ前に書いたものですが、自分の書いたものでもよろしいのでしょうか?」

早速持って来て頂くと、詩も書も申し分なく素晴らしいものでした。
Kさんは茶道だけでなく書道に長年研鑽を積まれていたのでした・・・。


  「九日舟中」      汪時元

  秋風葉正飛   (秋風 葉 まさに飛び)
  江上逢重九   (江上重九に逢う)
  人世幾登高   (人世幾たびか高きに登る)
  寂寞黄花酒   (寂寞たる黄花の酒 ) 

「秋風が吹いて木の葉が散り 船旅の途中で重陽の節に会う。
 人は一体何回この節に会うことができるのかと思うと
 菊酒を飲みながらも寂しさを覚える」

この詩から重九 (ちょうく)の茶事と命名されたのです。





茶事当日、亭主Kさん、半東Uさん、水屋Fさんが9時30分に拙宅暁庵に集合しました。
それぞれ準備を分担し、お客さまが到着する頃(11時30分席入り)にはなんとか間に合いましたが・・・いつもながら ふぅ~!
ため息をついている暇はありません。あとは3人にお任せして暁庵は三客として待合へ。

お正客Oさま、次客KTさま、四客Tさま、詰N氏とご挨拶を交わしました。
皆さま、Kさんの茶事を祝って素敵な着物をお召しなって、私まで浮き浮きと嬉しくなりました。
暁庵は竹が描かれた黒地絽の付け下げ、山水の墨絵の白地帯を締めました(もちろん全部、母の形見です・・・)。
詰N氏(絽の十徳でした・・・)の打つ板木の音が力強く響き、さぁ!茶事のスタートです。




待合の煤竹の捶撥(すいはつ)に短冊掛けられていました。
「万古清風」 筆は前大徳 積応師、
色紙の下に、京都嵐山の法輪寺の茱萸袋(重陽の日だけに購入できる延命息災・不老長寿のお守り)が掛けられていました。

冷たい梅ジュースを頂戴して、腰掛待合へ・・・我が家ですが、客として新鮮で不思議な気分を味わいながら。
狭い腰掛待合に客5人が親しく寄り合い、筧の水音を聞き、庭の緑樹を渡ってくる清風に涼んでいると、ご亭主が現われ蹲踞をあらためています。
高らかな水音が聞こえ、いよいよ迎え付けです。

さて、席入りも終わり、ご挨拶となりました。
お正客Oさまがあれこれお尋ねになっています・・・きっとご亭主は内心びっくりしたことでしょう。
一通り客全員がお招きのお礼などご挨拶をしてからお正客からお尋ねがあります・・・と日頃お教えしていたからです。
でも茶事には筋書きなどありませんので、Oさまのお尋ねはとても時宜を心得たものでした。
Oさまも書を嗜んでいらっしゃるので、床の間の書に一目で惹きつけられ、いろいろお尋ねしたかったようです。

Kさんが落ち着いて丁寧に応えようとしている様子を拝見して安心しました。
「もう心配するのはやめて、私も重九の茶事を楽しみましょう」
・・・舵を切りなおしたら、お正客Oさまの穏やかなお人柄にも助けられ、社中の皆さまとゆったりと愉しい時間が流れ出したのです。(つづく)

       
     初めて・・・「重九の茶事」 その2へつづく


初めて・・・「重九の茶事」 その2

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(つづき)
「時分どきですので粗飯を差し上げます」とご亭主Kさん。

いよいよ懐石です。
懐石は膳や鉢を持ったまま立ったり座ったり、立ち居振る舞いが大変ですが、羨ましいくらい軽やかでした。
Kさんはお酒を召し上がるので、暁庵にはなかなか出来ない千鳥の盃に挑戦して頂き、お客さまにとっても良い経験になりました。
・・・いつも思うのですが、客一同が懐石を共にすることで、座が一層和やかになり親しさが増すのは食の持つ力でしょうか。
席中で皆様と一緒に美味しく頂けて、幸せでした。 ご馳走さまでした!

懐石料理は不肖暁庵の担当ですが、最終的な味付け、盛付などは水屋のベテラン・Fさんにお願いしました。
席中で懐石を頂いて、いろいろ感じ取ってみたい・・・というのが客として参加した理由の一つです。
全体の印象は? 味付けは? 盛付は? 温度は? 量は?・・・など、いっぱい思うところがあり、今後に生かせれば・・・と思っています。

懐石献立を忘備録として記します。

  向付   鯛昆布〆 オクラ  山葵  かけ醤油
  飯    一文字  
  汁    絹豆腐 ジュンサイ 茗荷  赤味噌  辛子
  煮物椀  海老と枝豆の真蒸  椎茸  結び三つ葉  青柚子
  焼き物  鰆の幽庵焼
  炊き合せ 鳥の丸 揚げ茄子 さくら麩 オクラ
  もう一品冷たくして   卵豆腐 海老 オクラ 茗荷   
  箸洗   葡萄ピール
  八寸   山芋のサーモン巻(ケッパー入り)  枝豆の松葉刺し  
  香の物  沢庵  胡瓜  茄子
  湯斗   こがし湯
  酒    上善如水(一献目菊の花弁を散らして・・・)



   点前座のしつらえ(当日の水指は高取)

風炉なので懐石後に初炭となりました。
手前は全く心配していませんでしたが、お道具のほとんどは我が家のものなので
お正客Oさんがつい私の方を向いてお尋ねになるので
「どうぞご亭主にお尋ねくださいませ」
「あららっ・・・失礼いたしました」と朗らかなOさま、亭主も座もドッと和みます。

唐銅道安風炉は一ノ瀬宗和造、釜は桐文真形釜で敬典造です。
炭斗は淡々斎お好みの蛍籠、
黒柿割香合(中林星山作)はご亭主のお気に入りだそうで、ススキ野にかわいらしい兎の蒔絵が描かれています。
蓋を開けると、中が丸く掘られ、金彩が施されているので
「あらっ・・・月がここに・・」と誰かが嬉しそうに話しています。


    主菓子「あるじ草」  打出庵大黒屋(横浜市日ノ出町)製

初炭が終わり、縁高が運び出されました。
主菓子は重九の日にふさわしい光琳菊を思わせる練きりです。
後座でお尋ねがあり、菓子銘は「あるじ草」(菊の別名だそうです)、打出庵大黒屋(横浜市日ノ出町)製です。
程よい甘さが絶品の「あるじ草」を頂戴し、蝉しぐれの中、まだ陽射しの強い腰掛待合へ中立しました。(つづく)




   初めて・・・「重九の茶事」 その3へつづく    その1へ戻る


初めて・・・「重九の茶事」 その3

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       後座の床の花(黄色の小菊と矢筈ススキ)

(つづき)
銅鑼の音で後入りすると、「九日舟中」の御軸は釣り舟花入(韓国の杼)に変わっていました。
舟で揚子江(長江?)を下るのでしょうか?
・・・そう思うと、黄色の小菊が舟中で寄り添い、秋の風情を楽しむ主客一同のようにも見えてきました。
中立の時に心配だった火相と湯相も調っていて、水屋の3人で力を合わせたことでしょう・・・。

濃茶点前が静かに始まりました。
客一同、固唾をのむようにKさんのお点前を見守っています。
緊張されていたと思うのですが、いつものようにすらすら流れるように茶入や茶杓が清められていきました。
5人分の濃茶を練ることは滅多に無いことなので、2杓目の湯を入れるときに
「もう少し湯を足してください」とアドバイスしました。

茶席中に茶香が馥郁と薫りたち、
「とっても美味しく頂戴しています」とお正客さま。
「(わぁ~!)よく練れていて美味しいです!」と次客KTさんからも声なき歓声が上がりました。
(さぞや安堵されたことでしょう・・・)

濃茶は「松花の昔」(小山園)です。
大ぶりの赤楽茶碗はお持ち出しで、本阿弥光悦の「毘沙門堂」写しで祥悦造。
口まわりを覆う白雲のような釉薬の景色、胴の荒々しい削りがにわかに降り出した時雨を連想させ、毘沙門堂(京都・山科)の華麗な紅葉が頭の中を横切っていきました。



赤楽茶碗の他にも、初めての茶事を記念して購入されたという茶入が目を惹き、早速Oさまがお尋ねしてくださいました。
肩衝茶入は萩焼の岡田裕作、なだらかな肩の形状や、乳白色の釉薬が醸し出す微妙な色合いが印象に残りました。
特別注文されたという仕覆は織部緞子、裏地は珍しい玉虫海気、仕覆にもお心入れを感じます。
これからKさんの茶事で大活躍してくれることでしょう。



つづき薄茶となり、煙草盆と干菓子が運ばれました。
半東Uさんがお点前を途中で交代し、Kさんからお道具のこと、「九日舟中」の書のお話などをゆっくり伺うことが出来ました。
書の事はよくわかりませんが、行書体で長い筆で書いたそうです。
薄茶になると、一同すっかり打ち解けてお話も弾み、直ぐに終わってしまうのが惜しいようでした。
台風21号や北海道地震の直後でしたので、Kさんのお蔭でこのような充実した時間を過ごせることが有難く、巡り合った諸々のご縁に感謝しました。


最後になりましたが、Kさん、茶事のご成功、誠におめでとうございます!
これも日頃のたゆまぬ努力の賜物と存じます。
きっと今回の茶事の経験はKさんの宝物になることでしょう。

反省点は多々あると思いますが、次回の宿題にしてください。
お正客Oさま始め、社中の皆さまがご亭主を温かく見守って、力を合わせて後押ししてくださったのですから、これに勝るものはないのでは・・・と思います。
この貴重な経験を糧として、これからもお茶の道をゆっくり楽しみながら歩んでくださいね。


   ある日の稽古風景 (茶事の道具を使ってつづき薄茶)


忘備録として会記を記します。
  待合  
   床    「万古清風」  前大徳 積応師  
   煙草盆  春慶塗香座間透 
   火入   染付 冠手

  本席(初座)
   床    掛物「九日舟中」  聡美筆
   風炉   唐銅道安   一ノ瀬宗和造      
   釜    桐文真形   高橋敬典造    
   炭斗   淡々斎好み蛍籠
   羽根   シマフクロウ
   火箸   以岡山城大手門古釘
   灰器   琉球焼         
   香合   黒柿割香合 兎蒔絵  中林星山作         

  本席(後座) 
   床    花    黄色小菊 矢筈ススキ   
        花入   韓国製・杼(ひ)の釣り舟
   棚    桐木地丸卓
   水指   高取   十三代八仙        
   茶入   肩衝  萩焼窯変   岡田裕造
   仕覆   織部緞子 (裏地 玉虫海気)
   茶碗   赤楽 光悦「毘沙門堂」写  祥悦造
   茶杓   銘「寧」(ねい)   染谷英明作
   棗    鵬雲斎好み三景棗   竹内幸斎作  
   茶碗(薄茶) ①祥瑞 三代竹泉造  ②「花篭」 押小路窯  ③ 信楽 鵬志堂イサム造  
   蓋置   尾戸焼 山水画        
   建水   赤膚焼    

   濃茶は「松花之昔」(小山園)、薄茶は「金輪」(小山園)です。

 
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充電中です・・・篠田桃紅さんの本

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秋雨前線が停滞し、関東では天候不順のこの頃です。
ブログ「暁庵の茶事クロスロード」の読者の皆さま、お変わりありませんか?

9月に入り、台風21号さらに北海道地震と天地を揺るがす出来事が続き、被災された方は如何ばかりにお過ごでしょうか。
心配するだけで何もできない自分がもどかしい思いですが、心からお見舞い申し上げます。

9月9日のKさんの「重九(ちょうく)の茶事」が無事に終わり、その様子も書き留めておきたいと思いながら、あわただしく過ごしております。
「初めての亭主のお茶事、どうなったのかしら?」と心配してくださっている方もいらっしゃると思いますが、もうしばらくお待ちください。
(やっとブログにアップしましたので宜しかったらご覧ください)

「重九の茶事」のあと、いろいろ続き、猛暑の疲れが出て来たようで、体力・気力ともにだいぶ低下しておりました。
そんなときは、何もしないことが一番なのですが・・・。

15日(日)と16日(月)と連休でしたので、お茶から離れて何もしないことを心がけました。
一日はグダグダごろごろと寝ながらテレビで過ごしました。
その合間に手にとったのが、積んでおいたままになっていた書籍です。

気の向くままに並べると
○ 今一番のお気に入りの本かもしれません。
103歳の篠田桃紅さんのスカッと吹っ切れたような人生観や死生観に惹きつけられ、次々と関連の書を購入しました。
お勧めはこちら「103歳になってわかったこと-人生は一人でも面白い」です。

  

  


○ 散歩の途中で野の花や野草をたくさん摘んで、ワイルドに生けるのが好きです。
 野の花は名前がわからないものが多いので、時々本を開いて名前を調べたり、野の花や茶花を素敵に生けている写真やグラビアを見て刺激をもらっています。

  


    久しぶりに割れ壷に野の花を入れてみました

○ 珍しく積読だったお茶関連の本を読みだしたら、けっこう面白かったのがこちら「女性と茶の湯のものがたり」。
茶の湯を愛した女性たちの知られざる「ものがたり」のいくつかにぐいっと心を掴まれました。
詳しくご紹介したいところですが、大昔、夏休みの宿題で読書感想文を無理やり書かせられたせいで、本の感想を書くのが苦手です。
・・・でも、触発されて読んでくださると嬉しいかな?

  


○ 今日(27日)、本を整理して半分くらいは捨てよう!と、勇んで書斎へ入りました。
書斎とは名ばかりで茶道具置き場と化しています。
捨てる本を物色していたら、読みたくなった本ばかり目に留まり、数冊を手にしてすごすご引き上げました。
・・・それで今、乙女の昔に戻って・・・捨てずに本棚の片隅にあったエミリ・ブロンテ著「嵐が丘」を読み直しています。
                     

雨の隣花苑と三溪園へ・・・(1)

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  玄関の大壺に生けられた柿の木


  隣家苑の庭・・・こぼれ萩が雨に濡れて

9月に入り、雨ばかり続いています。
9月21日(金)も朝から雨でした。
むらさき茶会以来3年ぶりに五葉会のお仲間6人で隣花苑へ繰り出しました。
9月に限って出される名物の蓮華飯がお目当てで、皆、7月から楽しみにしていました。

雨の日にふさわしく、古民家の玄関には蓑と傘が掛けられ、大壺に生けられた柿の木が目を惹きました。
あちこちに客迎えの花が、大壺に枝もたわわにダイナミックだったり、背負い籠に繊細な秋の花いっぱいだったり、野の花が楚々と入っていたり、いずれも拝見するのが楽しみでした。


 広い土間にダイナミックに生けられた栗の木


 虎杖 (いたどり)のなんと魅力的なこと!

どんな方が生けていらっしゃるのかしら?と思っていたら、ちょうどその方がいらしてて、傍で見させて頂きました。


 時代のある背負い籠に秋の花がいっぱい

雨のせいか席は空いていて、大好きな旧燈明寺三重塔が見える部屋に6人がゆったりくつろぎながら昼食を頂きました。


  三溪園の旧燈明寺三重塔が見える部屋


  尊敬する原三溪翁筆の「守拙」の御軸(隣の部屋に掛けられていました)

給仕の仲居さんがむらさき茶会でお世話になった方で、あちらも覚えていてくださって茶会のあれこれを懐かしくお話ししました。
あとでオーナーの西郷槇子さんも挨拶にいらしてくださって、お互い元気に再会できたことを喜び合いました。


 3年ぶりの蓮華飯・・・さくさくした歯触りも個性的な味も好し!

隣花苑の料理は、ヘルシーで素朴な野菜料理が多く、蓮華飯とともに気に入っています。
家庭料理風なので必ず何かヒントと刺激を頂いて帰ります。





中でもお気に入りは、白和えのようなクリーミィなソースが添っているサラダ(?)です。
茄子、オクラ、ベビーコーンなどの野菜をソースを絡めて食べるのですが、そのソースがもう絶品でした。
・・・どうやら隣花苑ご自慢の名物料理みたいです。
「ウチでも挑戦してみよう・・・」と早速作ってみると、その絶妙な味とクリームみたいな形状が再現できずに苦戦しています。

美味しい昼食と七事式のお仲間との愉しいおしゃべり・・・お腹も心も満ち足りて、雨の三溪園へ向かいました。(つづく)


      雨の隣花苑と三溪園へ・・・(2)へつづく

雨の隣花苑と三溪園へ・・・(2)

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  雨に打たれるハスの葉が物悲しく・・・

(つづき)
久しぶりの三溪園は雨のせいで人気もなく静かでした・・・。
雨に打たれるハスの葉と台、池面をたたく雨音、もやっている孤舟が物悲しく、三重塔をバックに撮ってみました。
雨の三溪園も静寂に包まれてステキです!



滝口入道と横笛の悲恋を物語る「横笛庵」の前を通り、「旧矢箆原家(やのはらけ)住宅」を見学しました。
旧矢箆原家は元は白川郷(現高山市)にあり、昭和31年に国指定重要文化財になっていましたが、御母衣(みほろ)ダム建設で水没することになったため、昭和35年三溪園に寄贈、移築されました。



久しぶりの訪問でしたが、改めて由緒のある古民家の魅力を堪能しました。
「おいえ」(家族団欒の場)と「だいどころ」(調理や食事の場)の2ヶ所に囲炉裏があり、「だいどころ」の囲炉裏は今も年中火を焚いているそうです。


「だいどころ」の囲炉裏・・・自在に湯釜が掛かっていました

旧矢箆原家建物の特徴は、左半分が式台玄関を備えた格式ある書院造り、右半分が普通の農家造りになっていて、いずれも見ごたえがあり、お勧めです。
これだけの家を建て、維持する財力はどこから得たのだろうか?
雪に覆われた白川郷の風土を思い出しながら疑問に思っていると、ボランティアさんが「火薬を製造していたのでは?」と推理されて、興味深く拝聴しました。
(暁庵は特殊な生薬(きぐすり)の製造では?と思ったのですが・・・)


  中秋の名月のお供えがあちらこちらに飾られています

薄茶を喫みたくなって三溪記念館の呈茶席へ寄ると、観光バスで来園した中国(?)の方で満席でした。
50人近くいらしたのですが、全員がお菓子を食べ、薄茶を頂いたのでしょうか。
こちらの呈茶席は、裏千家流をはじめいろいろな流派の方が日替わりで受け持っていて、この日は表千家流の担当でした。
ようやく席が空いたので、一番前の席へ五葉会の6人が座りました。
席主のお顔を拝見して、ご近所のF先生とわかり、ご挨拶しました。

ちょうど人出も途切れたところだったので、社中やお仲間と十数年もこちらで呈茶を続けていること、
外国の方が一言でも母国語で話しかけられると笑顔を見せるので、外国語(たしか50国以上・・・)の挨拶を勉強して話しかけていること、
お持ち出しのお道具(李正子氏の生涯と高麗茶碗、「茶杓 源氏十二月即中斎作写」)・・・など素敵なお話をたくさんしてくださいました。

紅白の名物落雁と表千家流の薄茶を美味しく頂戴しました。ごちそうさま!



80代後半という年齢を伺って、一同、もうびっくり。
三溪記念館を訪れる外国人やお茶と御縁のない日本人をにこやかにお茶でおもてなしする、そのひたむきな御姿とたゆまぬ努力にただ圧倒され、心からご尊敬申し上げ、そして、お茶の道を歩む者として強烈な刺激を受けたのでした。 

この日一番の出来事はF先生とのお出逢いでした・・・。
ご近所なので改めてお会いできれば・・・と思っています。


      雨の隣花苑と三溪園へ・・・(1)へ戻る

2018年 長月の教室だより・・・許状式

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アップが遅くなりましたが・・・2018年9月22日に許状式をしました。

Kさんが上級(行之行台子(ぎょうのぎょうだいす)、大円草(だいえんのそう)、引次(ひきつぎ))の許状を、
Tさんが中級(茶通箱(さつうばこ)、唐物(からもの)、台天目(だいてんもく)、盆点(ぼんだて)、和巾点(わきんだて))の許状を拝受しました。
誠におめでとうございます!

許状式は4回目ですが、坐忘斎御家元に代わって許状をお渡しするのでいつも襟をただし、緊張感を持って臨みます。
それに暁庵の茶道教室らしい許状式を・・・と心掛けています。
今回は上級(行之行台子、大円草、引次)の許状をお渡しするので、お祝いの膳をお出ししたいと思いました。
いつものように社中の方に「立会人として参加して頂けませんか?」とお声掛けしたら、Fさん、Uさん、KTさんが参加してくださって嬉しいです。

利休居士の画と鵬雲斎大宗匠の賛のある御軸を床に掛けました。
花入、香炉、燭台の三具足をかざり、菓子とお茶をお供えします。
KさんとTさんに菓子と撒き茶を入れた天目茶碗のお供えをお願いしました。
花は庭の水引と秋海棠です。



10時から許状式を始めました。
席入り後、床の御軸についてお話ししました。
利休居士の画像は土佐光孚(とさみつたか)による画の写しです。
鵬雲斎大宗匠の賛が誠に許状式にふさわしく、この画賛に出会うのが毎回楽しみなのですが、・・・左右を逆に読んでしまい、今一つ内容がピンと来なかった訳です(お恥ずかしいです 
正しくは以下の通りです。

   今日親聞獅子吼  
   他時定作鳳凰兒        宗室(花押)

  読み下しは、
    今日親シク獅子吼(ししく)ヲ聞ク
    他時定メテ鳳凰ノ兒(ほうおうのこ)ト作(な)ル

  今日、利休居士に繋がる茶道の門を敲き、その教えを聞くご縁ができたことを嬉しく思います
  いつの日か、茶道の修練を重ね茶道の真髄を体得できることを願っています
  (・・・そのような内容だと思います)



許状を読み上げてお渡ししました。
難しい文章に汗を掻きながらも許状をお渡しすると、暁庵も身が引き締まる思いがして、これらの科目をしっかりお教えしなくては・・・と思うのです。

「許状」はお茶の道を辿って行く上での道しるべになると思います。
あせらずに、しっかりお稽古を積み重ねて道しるべを辿って行くと、その先に何とも言えない充実した愉しい境地(茶道の真髄)が待っています。
どうぞ一歩一歩その境地をめざして歩んで行って下さい。

お祝いの言葉を立会人の先輩方からも掛けて頂き、お二人もきっと何かを感じてくださったことでしょう・・・・。



  (別のお稽古の時の写真ですが・・・)




許状より「行之行台子」と「唐物」を選び、不肖・暁庵が「行之行台子」の点前を伝授し、Fさんに「唐物」の点前を披露して頂きました。
主菓子は5種(「梅薯蕷」、「秋桜の練きり」(以上石井製)、煮物2種、巨峰)を縁高に入れてお出ししました。
濃茶は松花の昔(小山園)です。

KさんとTさんのお祝いに、暁庵手づくりのランチをお出ししました。
主な献立は、赤飯、味噌汁(豆腐、ミョウガ、じゅんさい)、向付(胡麻豆腐)。
揚げ茄子の煮物、鳥肉・里芋・人参・ゴボウなどの炊き合せ、玉蒟蒻のピリ辛、白和え(隠元、人参、椎茸、蒟蒻)、卵焼、南瓜麩などを中皿に盛り合わせてお出ししたのですが、多過ぎたかしら?
作りだすと止まらなくなって、反省しています・・・。

午後から稽古があるため一献は残念ながら無しにしました。
ランチタイムでは許状式の緊張が解け、愉しくおしゃべりが弾みます。


 利休さまに見守られて長緒のお稽古をしました

午後になって、Tさんの長緒、Uさんの行之行台子と稽古が続き、疲れたけれど充実した一日となりました・・・・。 


     暁庵の裏千家茶道教室   前へ    次へ    トップへ

茶室披きの茶事へ招かれて・・・その1

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 立礼席(腰掛待合)に掛けられていた鳥獣戯画のような「叢虫夜行図」(毛利梅友)


台風24号が関東地方に襲来しそうな9月30日、小堀遠州流のTさまの茶室披きの茶事へお招き頂きました。
「茶室のある家にご縁があって引っ越すことになりました。
 その茶室は地下にあって急な階段を下りていくと・・・」
お話は伺っていましたが、聞くと見るとは大違い・・・想像をはるかに超える地下のお茶空間に驚くとともに、初めての小堀遠州流のお茶事に興味津々でした。
不肖・暁庵が正客、次客はFさま、詰は小堀遠州流のYさまです。

茶席への階段を下りていくと銅鑼があり、ここからお茶事が始まっているような気がして、気持ちが引き締まりました。
待合は6畳でしょうか? 竹縁の丸みを帯びた天井や障子戸からの採光など、地下を感じさせない凝った造りになっています。



待合の壁にノリゲ(元々は韓国・宮中の女性の服飾品)が飾られていました。
玉を使った素晴らしい一対のノリゲは婚礼のような慶事に使われていたそうで、茶室披きの茶事に臨まれるご亭主の熱い思いが伝わってくるようです。
待合の煙草盆、火入(阿蘭陀)と灰形を楽しみました。
あとで伺うと、3つの煙草盆(待合、腰掛待合、茶室)の火入の灰形をそれぞれ変えてみたそうです。
待合は裏千家流とのこと、お心遣いに感謝しつつ、ご亭主が茶事のあれこれを楽しんでいらっしゃる様子が嬉しいです。


 1つずつ微妙に模様が違う汲み出し(隅田川焼)

小堀遠州流では詰が半東の役をするそうで、詰Yさまが入れてくださった柚子湯で喉を潤しました。
Yさまが喚鐘を銀の棒で慣らすと、腰掛待合へ通じる戸が開けられ、羽箒を手に持ったご亭主が戸口に立ち、無言で頭を下げました。
私たちも頭を下げました。すると
「本来は無言なのですが、当流のお茶事は初めてでいらっしゃるので、これからの流れをお話しさせて頂きます・・・」
ご説明を伺って何やら安堵して、腰掛待合へ移動しました。

腰掛待合は10畳ほどの広さの立礼席になっていました。
床に掛けられた御軸の鳥獣戯画を連想する画がなんとも珍しく、ユーモラスで魅入りました。
秋の虫たちが、お茶壺道中ならぬ茄子などの野菜を駕籠で運び、秋の野道を行列している風景です。


 灰吹きの水の煌めきに誘われて・・・腰掛待合(立礼席)にて

腰掛待合の煙草盆は平盆に紙が敷いてあり、火入は白地の陶器、辰砂のような色の葡萄絵が描かれています。
細い掻き上げの灰形が珍しく、小堀遠州流の灰形のようです。
キセルときざみ煙草があり、低い白竹の灰吹きの水が照明できらきら輝いています。
それを見ていると、歌舞伎の役者さんのようにかっこよくキセルで煙草をふかしてみたくなりました。
初めて茶事で吸ってみたのです・・・。
きざみ煙草をキセルに詰め、3回ふかしてポンと灰吹きに吸殻を落し、これにて終了。
煙草の煙でさぞや連客のお二人にはご迷惑だったことでしょう・・・。

蹲を清める水音がしてご亭主の迎え付けです。
再び無言でご挨拶し、露地を戻るご亭主を見送ります。
吹き抜けの露地庭が光庭を兼ねて造られていて、外界の様子を伝える唯一の場所です。
蹲踞へ進むと、地下から澄んだ音色が聞こえてきました。水琴窟です。
ご亭主の水音の余韻を楽しみ、水で心身を清めると、また水琴が奏でられ、いつまでも聞いていたいような・・・(つづく)


    茶室披きの茶事へ招かれて・・・その2へつづく


茶室披きの茶事へ招かれて・・・その2

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    躙り口から席入りしました

(つづき)
躙り口から席入りすると、床に「無事」と書かれた御軸、紫野徳禅寺の橘宗義和尚の筆です。
点前座に進むと、仕付け棚に茶入が飾られていて、朝鮮風炉が置かれています。
座が静まると、お詰のYさまが「エッヘン!」と咳払いしました。
(この「エッヘン!」が何とも言えぬ貫録と緊張感があって心に残りました・・・)
襖が開けられ、ご亭主へ裏千家流に「どうぞお入りを」とお声掛けしました。

ご挨拶の後、「都合で初炭を先にさせて頂きます」
炭手前は流派によって一番違いがあって楽しみなのですが、すぐ横なのでしっかり拝見できました。
羽箒(お手製の熊鷹)の置く位置、掃き方など目を皿のようにして見詰めます。
釜は二代長野垤志造の肩霰真形釜、濡れ茶巾でポンポンと叩きながら拭かれていくと、濡れ肌が美しく浮き上がり、立ち上る湯気をうっとり見詰めます(このシーンがいつも待ち遠しく大好きです)。
香合は彫漆俱利(吉田楳堂作)、仄かな薫りが部屋をしずかに満たしていきました。。
最後に熊鷹の小さな羽箒で座履きが行われ、こちらも目を皿のようにして見詰めます。


立礼席に掛けられている古釜(大西定林造)が垂涎ものでした・・・こちらで懐石を頂きました

茶室から腰掛待合の立礼席へ戻り、懐石となりました。
懐石教室に長年通われて修練された懐石はどれも美味しく、3人で舌鼓を打ちながらゆっくり頂戴しました。ごちそうさま! 
特に向付(鯵の細造り)、炊き合せ(茄子、南瓜、炒り万願寺)、強肴のイチジク2種(白酢と赤ワイン煮)は早速我が家でも試してみたくなりました。 
主菓子も手作り、栗入りの葛まんじゅうと思いましたら、葛ではなく蓮根餅だそうです。程よい甘みが栗の風味とともに口いっぱい広がりました。

ここで待合へ中立し、銅鑼の合図で後座の席入りです。
いよいよ濃茶です。香の薫りが残る茶室へ入ると、床は花に変わっていました。
「屋上庭園に茶花や山野草の鉢がいっぱいあって。管理が大変なの・・・」
と伺っていましたが、7種の秋の花々はすべてその庭園のものだそうです。
ススキ、女郎花、吾亦紅、秋海棠、白萩、藤袴、孔雀草・・・秋の花の優しい彩が茶室を和やかに包みます。
花も素敵でしたが、花入は李朝の筆筒だそうで、古木の味わいに一目ぼれです。
筆筒を花入に・・・という発想もステキでした(写真がないのが残念・・・)。


  立礼席の床です

点前座にはどっしりとした水指、伊賀焼でしょうか?
蓋に割れがありました。
火相も湯相もよろしいようで、濃茶への期待が高まります。
「エッヘン!」を合図に襖が開き、小堀遠州流の濃茶点前が始まりました。
裏千家流との大きな違いは、茶碗の仕込み方です。千鳥茶巾の上に茶筅がさかさまに立てかけられていました。
袱紗の付け方、袱紗捌き、茶入や茶杓の清め方など所作が少しずつ違い、興味深く拝見しました。
濃茶(一滴の翠、小山園)が出され、三角に折った出袱紗(古更紗)が出されました。
茶碗は、落ち着いた色の高麗青磁、外側に陽刻の花模様(蓮花)があり、藤田美術館の菊花天目を思い出しました。

三角に折られた出袱紗の使い方がわからず、裏千家流に古帛紗を出して濃茶を頂戴しました。
少し薄めの濃茶はまろやかな甘みがあり、とても美味しかったです。
・・・ですが、3人分では少ないように思い、遠慮して2口頂いて茶碗を次客へまわすと、
「あのう・・・濃茶が少ないようですが・・・」と次客Fさん。
すると、「どうぞ全部のんでください。またお点ていたしますので・・・」
同じ茶碗でもう一服、濃茶が点てられました。
濃茶茶碗を清めているときに、茶碗の中をひとさし人差し指で撫で出したので、もうびっくり!
「あのう~指で何をしているのでしょうか?」と気になってお尋ねしました。
尋ねられた方もびっくりなさったことでしょうが・・・
「指で濃茶がついた茶碗を浄めていました」
一番、流派の違いを感じた瞬間でした。
そんなことをいろいろお尋ねしても嫌な顔一つせずに丁寧にご説明してくださり、心から感謝申し上げます。

菓子銘を名付けることになり、思わず「水琴の秋」が口から出ました。
折しも雨足が強くなり、雨が水琴窟に落ちて響いている音が幽かに聞こえて来たからです。
お茶の様々なサウンドスケープを発見して楽しんでいますが、雨音と水琴窟の響き合いは初めてで、忘れられないシーンです・・・。


  吹き抜けの露地と蹲踞・・・台風接近中でした

割れ蓋の伊賀水指(柳下季器造)が水屋へ下げられる時、詰Yさまから「お水指をお尋ねください」と言われたような・・・。
茶席の主のような水指だったので、ずっ~とそこに在るものと思い込んでいました。
水指の蓋はわざと割ったそうで、割れた部分を残して蓋を開ける感性に驚くとともに、とても素敵なご趣向と思いました。
薄茶の時に茜色の塗蓋(川瀬表完作)にお色直しして、再び運び込まれました。
続いて茶碗を3つ重ねて持ち出されたのも、裏千家流の薄茶では無い(濃茶では2碗重ねる「重茶碗」はありますが)ことなのでめずらしく拝見しました。
波文片輪車が描かれた九谷焼の茶碗で薄茶を美味しく頂戴しました。
次客Fさまは平戸焼の染付、詰Yさまは安南の茶碗です。

詰が半東の役目をすると伺っていましたが、詰が点前を交代してご亭主にお点てするのも新しい経験でした。
暁庵の茶事でも何かの折に取り入れたいものです。


 雨戸を塩梅すると、待合の採光や障子の景色が変わります

流派の違いの所作や小堀遠州流の仕方が新鮮で刺激的だったり、素敵なご趣向や思い出のあるお道具にうっとりしているうちに、地下室では浦島太郎のように時が過ぎていたのでした。
地上へ戻ると台風24号の襲来でJRが止まるという騒ぎの最中、Fさまに助けられてYさまと3人で家路へ急ぎました。

ご亭主Tさまの茶室披きの茶事へ懸ける思いを十分受け止めることができない正客でしたが、手厚いおもてなしをして頂き、時を忘れるほど心豊かに過ごさせて頂きました。厚く御礼申し上げます。
また、炉の時期にお招きくださると超嬉しい!です。 


         茶室披きの茶事へ招かれて・・・その1へ戻る

第6回お茶サロン「秋いっぱいのベランダ茶会」・・・その1

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 「秋いっぱい」の待合の床・・・活ける人も活けられる草花も生き生きとして


10月8日(月・祭)に第6回お茶サロン「秋いっぱいのベランダ茶会」を暁庵宅で開催しました。

ブログで募集した時から、どのようなお客さまがベランダ茶会へおでましくださるのかしら? とワクワクドキドキお待ちしていました。
その日の天気予報は曇り、どんよりした空を眺めながら雨を心配していると、早やお客さま(5名様)が到着したようです。

正客はツレと同郷の裏千家流Kさま(横浜市泉区)にお願いしました。
次客は裏千家流Yさま(東京都福生市)、三客は表千家流Iさま(東京都港区)、四客は武者小路千家流Sさま(東京都台東区)、詰は裏千家流Fさま(横浜市南区、暁庵社中ですが、是非今回はお客で・・とのこと)でした。
詰Fさま以外は初めての御来庵です。

ベランダ茶会は6月3日に続いて2回目なのですが、準備で四苦八苦し、いろいろ迷いました。
先ずは「秋いっぱい」をどう表現するか・・・秋の野の花を生けて楽しんで頂きたいと思いましたが、台風24号の襲来と塩害のせいで花は落ち果て、葉はちりちりで使い物になりません。
花をあきらめて香を聞いて楽しんで頂こう・・・と変更したのです。

・・・ですが、ベランダ横にある金木犀の花も香りも台風と共に去りぬで、肝心のベランダが寂しい風情なのが気になり・・・もう一度、花を探してお客さまに「花寄せ」で秋野の風情を楽しんで頂こうと、気持ちを再び奮い立たせました。
頼みは花屋さん、藤袴、紫りんどう、黄色、白、ピンクなどの小菊、葉鶏頭、ピぺリカムを購入し、花が揃ったので少しほっとします。

花屋さんの栽培種だけでは物足りなく、前日に1時間ほど野の花を採取しにいつもの散歩道へ出かけました。
すると畑の土手が一面に紅に染まっているではありませんか!
近寄ってみると、赤まんま(犬蓼)の大群落・・・それはそれは見事でした。
家であの景色を再現することはできませんが、赤まんまを多目に採取してきました。

その気になって探すと、赤まんま、ススキ、背高泡立草、狗尾草(エノコロ草、猫じゃらしとも)、蚊帳釣草、雄日芝、雌日芝、力芝、真菰(まこも)、烏瓜、柿、野葡萄など秋の野草をたくさん採取することが出来ました。
野草の名前はわかりにくく、「お茶人のための茶花野草大図鑑」(世界文化社)で調べましたが、違っていたらごめんなさい。



   「無我」   周藤苔仙書

待合は八畳の和室、床に「無我」(苔仙書、京都真言宗御室派大本山仁和寺顧問・周藤真雄大僧正故人(苔仙))の御軸を掛けました。
この御軸を掛けるとき、いつも「一人座って静かに己の心を見つめ、我を無くす大切さ」を教えてくれます。

板木を打つ音が聞こえ、半東Uさんが「かぼす湯」をお出ししました。
到来物のカボス砂糖漬を松葉に切って白湯へ入れたのですが、香りを楽しんで頂けたかしら?

ご挨拶の後、花台と炭台に花や野草をいっぱい乗せて持ち出し、花寄せを楽しんで頂きました。
ゆっくり花を選べるように時間をたっぷりとったので、思い思いのスタイルで活けて頂けたようです。
花の持つエネルギーが皆さまに伝わって、人も花も生き生きと、お客さまの個性が光る素敵な時間でした。


  ススキ、白の小菊、赤まんま   
  有馬籠


  背高泡立草、狗尾草、蚊帳釣草、真菰、赤まんま、ピンクの小菊   
  古瓦写(奈良にて購入)


 紫りんどう、藤袴、赤まんま、   
 ガラス花器(スウェーデン・コスタボダ製)


 烏瓜、力芝
 唐銅桔梗口(お茶の先輩・黒河さまから頂いた宝物)に赤い烏瓜がぴたりと納まりました


 ピンクの小菊? 真菰、蚊帳釣草、赤まんま
 鉄製燈明台写(白洲正子氏お好み)


 ススキ、背高泡立草、力芝、真菰、雄日芝、藤袴、赤まんま
 黒亀甲竹花入


待合から食堂(テーブル席)へ動座して頂き、半東Uさんと腕まくりでランチをお出ししました。
ランチの献立メモには次のように書いてありました・・・夢中でしかと覚えておりません。

 ①四方盆に、向付(卵豆腐、海老、オクラ、ミョウガ)、栗ごはん、
  煮物椀(銀杏と海老の真蒸、椎茸、三つ葉、紅葉麩、青柚子)
 ②一献(大吟醸・・・越後桜)
 ③丸皿に野菜サラダ(オクラ、切り干し大根と人参とシイタケの煮物、ミニアスパラ、ミニコーン、ミニトマト、ブロッコリィ)と和え衣
 ⑤かわいい器(酒盃?)に酢の物(モズク、胡瓜など)・・・半東Uさんが担当してくれました
 ④中皿に、鳥の丸、煮物(里芋、蒟蒻、人参、ゴボウ、椎茸)、煮豆、茄子の味噌田楽、山芋のサーモン巻、ブロッコリィ

デザート代わりに主菓子をお出ししで待合へ中立して頂きました。
主菓子は梅薯蕷(横浜市旭区都岡の石井製)、梅餡の甘みと酸味が程よく、今一番のお気に入りです。 


     第6回お茶サロン「秋いっぱいのベランダ茶会」・・・その2へつづく

第6回お茶サロン「秋いっぱいのベランダ茶会」・・・その2

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(つづき)
銅鑼の合図で蹲踞をつかい、ベランダ茶席へ席入りして頂きました。

試行錯誤中の茶席の設えですが、今回は丸いテーブルを点前座に使い、風炉釜と棚を置きました。
薄茶をたっぷり差し上げたかったので、織部紅鉢に桐文真形釜(敬典造)を選びました。
棚は煎茶用の円相棚、水指は高麗青磁、中棚に仕覆に入った薄器と金綸寺、天板に柿と烏瓜を荘りました。
動線の都合で点前座右側に旅箪笥(利休好み)を置き、中に茶碗、柄杓、建水、蓋置を入れ、洞庫として使いました。
天板は、茶碗や拝見の茶道具をお出しする小卓の役目もし、とても優れものです。

初炭をし、狭い火床に申し訳程度の炭を置き、香を焚きました。
香はつけぼし香です。
Fさまの志野流香道の先生から頂いた香をちりばめたので、早速に佳い薫りが漂います。
香合はアンティークの錫製小箱、1820年頃にイギリスで作られたもので嗅ぎ煙草入れだそうです。
この香合は横浜開港150周年を祝う茶事に使ったもので、久しぶりの登場で、香合の方が驚いているかもです・・・。


  アンティーク香合とつけぼし香

煙草盆と干菓子をお出しし、いよいよ楽しみな薄茶の時間になりました。
旅箪笥から仕組んだ茶碗を出し、棚の薄器を取って仕覆を脱がし、長緒のようなお点前をしました。
置く場所がないなど諸事情があり、即興の部分がありますが、心を込めて薄茶をお点てしました。

主茶碗は高麗御本三島、愛称「伊備津比女(いびつひめ)」です。
それから、洞庫にしまっておいた茶碗を次々と取り出してお点てしました。
順不同ですが、織部(・・といっても辰砂釉が美しい茶碗で、大学同級生の青木念作)、
虫明焼・平茶碗(今はもう見れなくなった・・・蓼純さんの虫明焼のブログ10周年記念に頂いた茶碗)、
信楽焼茶碗(銘「皎月」鵬志堂イサム作、京都のだるまさんに頼んで弘法市で買ってもらった茶碗)、
どれも思い出のあるお気に入りばかりです。
薄茶は「金輪」(小山園詰)、干菓子は「撫子」(琥珀糖、鶴屋吉信製)、「ひろ柿」(広島みやげ)、「フグ煎餅」(下関みやげ)の3種です。


 円相棚(煎茶棚らしい)で再現、水指がちがいますが・・・

狭いベランダですが、鳥の啼き声が聞こえ、秋のそよ風が心地好く、絶好の茶会日和です。
一順お点てしたところで、お点前を半東Uさんと交代して頂きました。
膝突き合わせる狭さゆえ会話も朗らかに弾み、皆さま、楽しそうです・・・もちろん、半東Uさんも暁庵も愉しい時間でした。
ツレと同郷の正客Kさまから頂戴した「銀寄」(ぎんよせ、渋皮煮)を皆で賞味したのも良き思い出です。

四客の武者小路千家流Sさまから
「今日は他流の方のお点前を見れたら・・・と思っていました」
そういえば、三千家が勢ぞろいしたのをすっかり忘れていました。
早速、武者小路流Sさまにお点前をして頂き、次に表千家流Iさま、最後に裏千家流Yさまにお願いしました。

薄茶を点てるだけなのですが、千家流でもいろいろ違いがあるものだなぁ~とびっくりしたり、堂々の所作に感心したり・・・このような交流も楽しくよろしいですね!
一番面白かったのは、茶碗を拭いた後に茶巾を釜蓋に置く位置でした。
釜蓋の摘みの前、摘みの右、摘みに懸ける・・・三千家で全部違っていました。
今度は是非、薄茶点前を最初から拝見したいものです。




最後に薄器(化粧壺)、茶杓、仕覆、金輪寺を拝見にお出ししましたが、茶杓のことだけ書いておきます。
茶杓は銘「秋の野良」、十数年前に京都・曼殊院で購入したもので、お稽古にも使っています。
良く使っているせいで、色艶も好く、名杓(私が言うのもへんですが、お許しを・・・)に育ちました。
「秋の野良」は大好きな和歌から名付けましたが、本番では和歌が出て来ませんでここに記します。

   里は荒れて 人は古(ふ)りにし宿なれや 
         庭もまがきも 秋の野良なる     僧正遍昭(古今集)


   第6回お茶サロン「秋いっぱいのベランダ茶会」・・・その3へつづく   その1へ戻る   募集記事

第6回お茶サロン「秋いっぱいのベランダ茶会」・・・その3

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 茶会が終わり、淋しくなってしまったベランダ
(雨が降りそうだったので、急いで店じまいしました)

(つづき)
ベランダ茶会が終わり、何やら淋しい気持ちで茶会のあれこれを想い出していると、
5人のお客さまから嬉しい後礼の手紙やメールを頂きました。
ありがとうございます!
お手紙やメールでたくさん元気を頂戴したので、「次回のベランダ茶会を開くエネルギーにしたい!」
と懲りずに思っています。
KさまとSさまから頂いた手紙を「秋いっぱいのベランダ茶会」の記念にこちらへ掲載させて頂きます。




Kさまより
狭庭の柚子や南天が少し色づいて参りました。
昨日は、お心こもったお茶事にお招き頂き、誠にありがとうございました。
暁庵様には初めてお目にかかりましたが、お優しいお人柄にうれしく、又、誠心誠意のおもてなしに筆舌に尽くせない幸せを感じて居ます。
待合のお軸「無我」を大好き・・・とお話し下さいましたこと、目の保養、心の保養をさせていただきました。
私も「無我」の心境にはなかなかほど遠いことですが、自分を返り見ることの大切さを感じ入りました。

花寄せの趣向にお花を沢山ご用意いただき楽しゅうございました。
お懐石もいずれも美味しく頂戴いたしました。
茶の湯は季節と共にあるもの・・・自然の偉大さに感謝しながら秋をいっぱい感じさせて頂き、
心洗われるお茶の深さ、楽しさを尚一層実感できました。
暁庵様の御指導のもと、F様、U様の暖かいおもてなしに大変感動いたしております。
御同席のお若い方々にはパワーを頂きましたこと、どうぞくれぐれも宜しくお伝え下さいませ。

本当にありがとうございました。
また、お目に掛かれます日を楽しみに致して居ります。
末筆でございますが、ご主人様に宜しくお伝え下さいますようお願い申し上げます。 かしこ  Kより




 Sさまより
謹啓
一雨ごとに秋が深まって来ているこの頃ですが、暁庵先生におかれましても益々ご清栄のこと、お喜び申し上げます。

先日は「秋いっぱいのベランダ茶会」にご招待賜り、誠にありがとうございました。
物語が一つ一つ詰まった御道具に目を奪われ、
御香のたおやかな香りに胸が開き、
ベランダにて鳥のさえずり、木立ちの風音を楽しみ、
残花いっぱいの花寄せで、草花の生命を手に感じ、
美味しい薄茶、心尽しの御料理に舌鼓をうつ、
まさに五感をふるに使ったお茶会でした。
冴えた五感で「無我」に少しでも近づけたでしょうか、
とても愉しいひと時でしたのに、まだまだ「自我」が先走っていたと自省しております。

長緒を勉強していると申した私に美しい御仕覆のお道具を取り合わせてくださいました先生のお気持ち・・・
先生のお人柄をこの一つのエピソードからも窺い知ることが出来ました。
先生の穏やかな、そして芯の通った御心の有り方がおもてなしに繋がるのですね。

帰りがけに「頑張ってね」と御声を掛けていただいたこと、
この御言葉を胸に険しくも楽しいこの道を歩んでまいります。
又、御目文字叶う日を心待ちにしています。
季節の変わり目、特に今年は寒暖の差が大きいですね。どうぞご自愛ください。  敬白  Sより



  キリギリス(?)の灰皿を待合の香立に

 暁庵より
お手紙やメールで「お優しいお人柄」「穏やかな」とか書かれますと、暁庵を知っている方々から反論されそうで、もじもじします。
しっかし、時々思うのです。
長年自分と付き合ってきたけれど、一体自分は何なのだろうか?・・・と。
己のことを一番知らないのは己ではないか、気づかなかった自分のことを周りの人によって知らされることもあるのでは・・・とも思います。
ごちゃごちゃ言いましたが、「おもてなし」は人をおもいやる「やさしさ」そのものかもしれません・・・ね。  


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北欧デザイナーによる茶碗・・・展覧会『SKAL―うつわで乾杯』

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10月5日(金)、ブログで紹介した展覧会「北欧デザイナー20人による茶道具『SKAL―うつわで乾杯』」へ行ってきました。
その日は14時から山本由香さんのトークショーがあるというので、五葉会の宗里さん、宗悦さん、宗真さん、宗厚さんとスウェーデン大使館(港区六本木)へ繰り出しました。


 トークショーの山本由香さん(Swedenstyle(スウェーデンスタイル)代表)

トークショーの演題は、「北欧FIKAのヒストリー」。
「FIKA(フィーカ)」とはお茶に誘う時に使われる言葉で、日本風に言えば「お茶しない?」「お茶にしよう」でしょうか。
コーヒー大好きなスウェーデンではFIKAと呼ばれるコーヒーブレイクが、職場でもプライベートでもコミュニケーションの場として大切な時間になっているそうです。
山本さんはプロジェクターを使って、北欧の暮らしの中で大切にされていたFIKAの様子や歴史についてお話しされ、FIKAで使われた器や茶器も紹介してくれました。




  展示作品を紹介している山本由香さん・・・盛況でした!


背の高い男性はスウェーデンから来日したデザイナーさんです(お名前が?・・)

展示されている作品は、北欧デザイナー20人が、自分自身と向き合い、それぞれの想いをこめて文章をつづっています。
デザインを元に茶碗制作は京焼や波佐見焼の若手デザイナーたちが行っています。


 陶器のプレートに乗った茶碗・・・プレートは古帛紗のイメージだそうです


 美濃和紙(透かしのある懐紙)を使用したという「灯り」がステキです

六本木一丁目駅前のマルシェで、個性的なデザインに惹かれて茶碗を2つ購入しました。
箱に貼られた、デザイナーさんの作品に寄せる詩のような想いに触れると、茶碗がいとおしく好きになりました。もっと買ってくればヨカッタ・・・・。
連れ帰った2つの茶碗をご紹介します。


Into the Woods, Kotte 森の中で、松ぼっくり 
   Butler/Linggard(ブドレー・リンドゴード)・・・スウェーデンのテキスタイルデザイナーデュオ

   おとぎ話のようなスウェーデンの森の自然界がインスピレーションです。
   苔がやわらかいカーペットのように地面を覆い、松ぼっくりがその上にころがっている、
   その景色を描いています



Cow Parsley レースフラワー
   Sofie Staffans-Lytz (ソフィ・スタファンス・リューツ)・・・フィンランドのイラストレーター
   
   幼い頃に過ごしたフィンランドの群島には、雪が積もっているかのようにレースフラワーが咲いていました。
   花束にしてもすぐに枯れてしまう、美しいけれどはかない命の花です。

モダンで個性的な絵柄ですが、北欧の自然をモチーフにしているので、日本の「FIKA」(茶の湯)に馴染み愛される気がします。
早速、薄茶を点ててツレと一碗ずつ試飲してみました。
薄茶は松柏(小山園)、菓子は「里の秋」(黄身しぐれ、石井製)です。
小ぶりですが、思ったよりたっぷり入り、点てやすく飲み易い茶椀でお勧めです。



由香さん! 時間があったら我が家でみんなで「FIKA」しましょう。

八ヶ岳山荘・名残りの茶事・・・(1)

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(天気にも恵まれ、八ヶ岳の雄峰に抱かれての茶事でした・・・)


2018年10月28日、N氏のお招きで八ヶ岳山荘・名残りの茶事へ出かけました。

昨年10月に続いて2度目のお招きですが、今年は10月25日にスウェーデンから来日した特別社中のOさん(お正客さま)、昨年用事で涙をのんだTさん、新しく入門されたKTさんが加わり、Kさん、Uさん、Fさん、暁庵の総勢7名になりました。
「全部で7名になるけれど四畳半の茶室に入れるかしら?」と私。
「先生、大丈夫ですよ。詰めて7名全員で入りましょう。私が詰でご亭主をお手伝いしますから・・・」と頼もしいFさん。



横浜駅7時51分発の「はまかいじ」へ、皆、浮き浮きと遠足気分で乗り込みます。
小淵沢駅で10時30分に合流するOさんTさんと待ち合わせ、タクシーで山荘へ向かいました。
(忘備録・・・その日の着物は紺地に菊などの花模様のある付け下げと金襴の帯、少し(だいぶ?)派手になってしまったけれどお気に入りのハレの一枚です。道中は防寒対策の雨コート(黒地に縞)で派手さを隠しました。いずれも母の形見の品で有難いです・・・)


   客迎えの紅葉の美しさに息を呑んで・・・

山荘に着くと、見事な紅葉が出迎えてくれました。
昨年より紅葉が進んでいて
「いつもはカラマツの黄葉が綺麗なのですが、今年は台風のせいで黄葉する前に葉が落ちてしまいました」とN氏。
広いリビングの待合に腰かけると、掛物と人待ち顔の根来塗の煙草盆が目に入ります。掛物は俳句、次のように書かれているそうです。

  山を見る
    ひとつ
   加へし
    齢もて
           九十一歳 風生




N氏コレクションの古染の八角火入、菱灰の灰形が美しく調えられて・・・



   山の空気が清々しいベランダ

腰掛待合はベランダ、
葉を落し始めた木々の黄葉を愛でながら、一同思わず深呼吸をしました。
気温が高めでしたので吹き抜ける清風が心地好く、マイナスイオンのシャワーをいっぱい浴びたベランダのひと時です。
古風な手あぶりが用意され、こちらは古伊万里の火入、ご亭主の気合をひしひしと感じます。


   腰掛待合(ベランダ)の煙草盆

躙り口が開き、蹲踞が清められ、ご亭主の迎え付けです。
この素晴らしい山荘のお茶事へ再びお招き頂き、社中一同無事にこの日を迎えられた喜びを感じながら、無言の挨拶を交わしました・・・。
お正客Oさん、次客暁庵、三客Kさん、四客Uさん、五客Tさん、六客KTさん、詰Fさんの順で席入りです。(つづく)


     八ヶ岳山荘・名残りの茶事・・・(2)へつづく

八ヶ岳山荘・名残りの茶事・・・(2)

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(つづき)
席入りすると、床の掛物は
「独座大雄峯」・・・紫野黄梅院・太玄和尚の雄渾な御筆です。

この禅語がご亭主N氏の御姿と重なり、吾が心を打ちました。
禅語の持つ本来の意味はよくわかりませんが、
大雄峯・八ヶ岳を仰ぎ見て一人山荘の茶室に坐し、何を思うのでしょうか。
しずかに己をみつめ、自分が自分を取り戻す大切な時間と空間。



お正客Oさんはじめ、お一人お一人と和やかに挨拶を交わし、
「都合により先に炭を置かせていただきます」とご亭主。
点前座はヤツレ風炉の中置、鉄のヤツレと整然と並べられた藁灰の侘びた趣きに感動!です。
10年ほど前に藁灰を使って名残りの茶事をしたことがありますが、藁灰づくりや藁灰を並べるのに費やした膨大な時間と努力を思い出し、頭が下がる思いでした・・・。

釜は姥口糸目釜(橋本辰敏造)、炭斗がう~ん・・・思い出せません。
灰器は亭主お気に入りのいびつな備前焼、大きく重厚な存在感が古武士を髣髴させます。
貴重な青藍の羽箒に目を奪われ、あとで拝見させて頂き、青藍入手のお話に花が咲きました。
香合は木地のどんぐり、まるで山荘の庭先で拾ってきたようでした。


    拝見に出された青藍の羽箒

初炭が終わり、中立してリビングで昼食を頂きました。
「昨年の蕎麦は短かったので、蕎麦打ちを習いにカルチャーへ通い、少し長くなりました」
たすき姿のご亭主と詰Fさんが甲斐甲斐しく働いてくださり、蕎麦と地産の漬物を頂き舌鼓でした。御馳走さま!


 シンプルな献立だけれど、つけ汁(鴨汁?)が絶品です

再び気持ちの良いベランダの腰掛待合で談笑しながら後座の迎え付けを待ちました。




 清風に吹かれ紅葉や黄葉で囲まれた腰掛待合(ベランダ)のひと時
 (陰の声・・・これからが本番、そんなにリラックスして大丈夫?)

銅鑼が打たれ、後入りの合図です。
皆、気を引き締め、つくばって銅鑼の音色を拝聴しました。(つづく)


    八ヶ岳山荘・名残りの茶事・・・(3)へつづく (1)へ戻る

八ヶ岳山荘・名残りの茶事・・・(3)

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(つづき)
後座の床を拝見して心を打たれました。
秋を彩る野の花が露に濡れて、ハッとするほど生命の輝きを放っています。
竜胆、照葉、赤い実は真弓でしょうか?猿捕茨でしょうか?
さりげなく掛けられている魚の花入にも心惹かれます。李朝でしょうか?
点前座に廻ると、細水指(なんと憧れの古丹波・種壺・・・う~ん!)と茶入が置かれていました。

こちらできんとん「秋の彩」(御殿場・虎屋製)を美味しく頂戴しました。
盛られている2つの菓子器が凄かったです・・・一つは十一代今泉今右衛門造の錦地文菓子鉢、もう一つは大好きな鈴木五郎造の鳴海織部大皿、異なる味わいですがどちらも魅力的です。


    「秋の彩」(御殿場・虎屋製)

重茶碗で濃茶点前が始まりました。
袱紗捌き、茶入や茶杓の清めの所作を見詰めていると・・・睡魔が襲ってきました。
すると、何とも言えない音色の松風が茶室中を吹き渡っているのに気が付いたのです。
まるで濃茶の前奏曲のよう・・・目を閉じ耳を傾けていると、釜に水が注され、音は一瞬止んだのですが、今度は囁くような音色を奏で始めました。

ご亭主が一心に練る濃茶の香りが室内に満ちていき、お正客Oさんが茶碗を取り込み、総礼。順次濃茶2碗で頂戴しました。
お練り加減よく、とてもまろやかで上品な甘みを感じる濃茶は、鵬雲斎お好みの「星友の昔」(星野園詰)、初めての濃茶です。

一碗目の黒楽で頂戴しましたが、銘「清友」楽十二代弘入作です。
丸っこく、すっぽりと手の中に納まってしまう大きさ、暗い茶室の中で濃茶と黒楽茶碗と喫む人の手が混然一体となる感じがよろしいですね!
二碗目は黒褐色の古唐津、又妙斎の御銘で「鳴海」。
こちらも渋く茶室に融け込んでしまう趣きです。
手に取ると、形も、黒と褐色の釉薬が織り成す景色も素晴らしく、心惹かれる茶碗でした。



前回と同じようで同じではない、心に残る茶事でございました。

社中の方々と賑やかに飛び交う会話、美味しい干菓子を賞味しながら、素敵な茶碗(高麗呉器茶碗、萩茶碗、虫明焼)で頂いた薄茶の数々、どのシーンも鮮明に思い出されます。


   拝見に出された薄茶の茶碗(虫明焼と萩焼)

スウェーデンからいらしたOさんはじめ、参加された皆さま、そしてご亭主N氏、それぞれの茶事への思いが凝縮された時間が過ぎていきました。
その一期一会の素晴らしさ、はかなさに・・・こうして書いていてもなぜか涙がにじんできます。  



一人亭主で一生懸命のおもてなし・・・どんなにかご準備等大変だったことでしょう。
それなのに、宿泊組のディナー、翌日の夢宇谷や八ヶ岳倶楽部の散策や素敵なティータイムにお付き合い頂き、さぞやお疲れのことと存じます。
最後までお世話になり、社中一同、厚く熱く御礼申し上げます。
                          

   八ヶ岳山荘・名残りの茶事・・・(1)へ戻る   (2)へ戻る

播磨・コルトレーン茶会・・・その1

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  姫路公園(姫路城)内にある好古園にて (2018年11月2日撮影)


11月2日、播磨在住のKさんのコルトレーン茶会へお招き頂きました。

2年半ぶり・・・6回目(だと思う。詳しくは最後に・・・)の訪問です。
回数を重ねる訳は2つあります。
1つは、Kさんの茶会がとても素晴らしく、参席すると、日頃貯めこんでいた虚栄心、慢心、迷い、自己嫌悪などの塵芥が洗い流され、
「そうだ!周りの事に惑わされず、自分の信じるお茶をやろう」といつも勇気を頂戴するのです。
Kさんの茶会は、私にとって茶の湯の原点であり、四国遍路のような存在になりつつあります。

もう1つは、そんな茶会だからこそ身近な方を連れていきたくなります。
その結果、Kさんの茶会をどのように受け止めるかはその方次第ですが、Kさんのおもてなしの素晴らしさはきっと通じるはず、その方の茶の湯人生になんらかの刺激を受けて欲しい・・・と願っています。

そんな訳で、この度はスウェーデンから帰国中のOさん(次客)と、2度目ですが社中Fさん(詰)を同行しました。



4時過ぎに木々に囲まれ山荘の趣き深きK邸へ到着すると、門からのアプローチに水がたっぷり撒かれていました。
実は前日までKさんの体調を案じていましたので、元気に水撒きする姿が目に浮かび、清々しいおもてなしを嬉しく感じながら玄関へ向かいました。

待合は毎回、場所が微妙に変わるのですが、玄関の上がり框の畳に3つの小さな椅子、廊下の奥に乱れ籠があり、傍の壁に額が掛けられていました。
掛物は英語のようですが、う~ん!読めません・・・前にも英語で禅語のような深い意味の詞が書かれていたことを思い出し、興味津々。

白湯が運ばれ、
「庭の腰掛待合でお待ちください」とご案内がありました。
広い庭に面して石のテーブルと石のベンチ(お気に入りが多いのですが、特にお気に入りです)があり、テーブルにはバリ島の盆、異国の雰囲気を感じるテーブルクロス、灰皿とレトロなマッチ・・・Kさんらしい素敵な設えです。
清められた庭には、緑の苔が露を含んできらきらと輝き、これだけでも大御馳走なのに、折から紅葉が美しい盛りでした。
椅子に座し深々と美味しい空気を吸っていると、まるで天蓋のような紅葉が華やかさを添え、この季節に来訪できた幸せを感じます。


  K邸の蹲踞・・・以前に撮影したものですが
 
ご亭主が水桶を持って現れ、蹲踞を清め、いよいよ迎え付けです。
お互い故障しがちながらこうしてお会いできた喜びを胸に、無言の挨拶を交わしました。

これも大好きな蹲踞をつかい(小袖の蹲踞を連想しながら・・・)、躙り口から4畳半の茶室へ席入りしました。
ご亭主と挨拶を交わし、早速、玄関待合の掛物についてお尋ねしました。
茶友(アメリカ在住の日本人男性)がKさんの茶会へ参席し、感じたことを英語の詩で綴ったものだそうです。
原文をご披露できないのが残念ですが、帰宅してから”コルトレーン茶会”を想い出しながら次のように訳してみました。

   蝋燭の灯りのもと、息遣いを感じるほどの静謐な茶室
   魂を揺さぶるようなサックスの音色
   互いの内面の在りように呼応しあいながらお茶を頂くひと時
   お茶にただ感謝!


床の御軸は、
  下手の
    中に
    真あり

決して上手な字ではありませんが、味わい深く素敵な書でした。
中という字が真ん中に大きく書かれていて、こちらも真ん中、心、内面が大事と言っているようにも思えます。



   玄関近くの待合にて

挨拶が終わると、食事が出されました。
3人分の椅子と特製の小テーブルが運ばれ、またまた一段と進化していました。
我が家の茶事でも、最近は椅子席で懐石をお出しすることが多くなっていますが、こちらでも小間に合わせた特製小テーブルを作り、煮物椀の置台が引きだされる用に工夫されていました。
自分で工夫されていろいろ作られるのも参考になり、刺激になります。

食事は、Kさんお得意のイタリア風でした。
品数は多くないのですが、食材からこだわり客の好き嫌いまで気遣って下さった逸品ばかりです。
心して頂戴し最後は大きなピザ、とても美味しく3人でたいらげました。御馳走さま!
ここで中立、先ほどの庭の腰掛待合で迎え付けを待ちました。(つづく)


      播磨・コルトレーン茶会・・・その2へつづく

播磨・コルトレーン茶会・・・その2

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  庭の石のテーブルとベンチへ続く露地

(つづき)
いつのまにか日は落ちて、腰掛待合の石のテーブルには蝋燭が灯っています。
山の中で夜を過ごしているような心持で、迎え付けを待ちました。

後座の席入りをすると、一層暗くなった茶室の床には花が生けられていました。
照葉、椿、小菊・・・そして垂涎の花入と古い板切れの花台・・・四方花入は一目で揖保川焼・池川みどり作とわかりました。
手づくりの主菓子と干菓子2種が運ばれ、最初の薄茶点前が始まりました。
前回のコルトレーン茶会と違い(・・・と記憶?)、点前の途中からコルトレーンの静かで、物悲しく、時に官能を揺さぶられるような曲が聞こえて来たような・・・なんせ、夢の中の出来事なのであります。

薄茶だけの茶会ですが、ご亭主Kさんの雰囲気が緊張感ある佇まいに変わり、濃茶のような厳粛なお気持ちで最初の薄茶を点てて頂き、客も無言で頂きます。
黒い椀形の高台が小さな茶碗(友人作)、蝋燭の灯りの中で手にすっぽりとおさまり、座に融け込んでいます。2つの黒い茶碗で2服頂きました。
拝見に出されたポルトガルの白い小筥の薄器、形と御銘が個性的な茶杓も始めて見るもので、お道具にまつわるお話はいつも心躍る交遊録、大好きな某家庭茶事の会の武勇伝(?)と共に毎回楽しみにしています。

Kさんのお点前は1年中炉の流し点ですが、違和感を感じたことは全くなく、よくぞこの点前に徹してシンプルかつ客を飽きさせない変化を工夫して続けているなぁ~と感心します。
そういえば、夏はもちろんのこと、1年12ヶ月のバリエーションができているの・・・と以前伺った事が有ります。


  ムラサキシキブ・・・姫路・好古園にて

白髪が多くなったKさんが一心に茶を点てる姿を拝見しながら、
「なんて素敵な、大切な時間なんだろう・・・
 願わくは、八十路になっても九十路になっても播磨の旅に出て、Kさんの点てるお茶をのみたいもの・・・」と思いました。
「お互い歳を重ね、これからもKさんのもとへ通う事が出来たら、なんと嬉しく幸せなことだろう! 歳をとることも悪くないなぁ~」と思います。

渾身の薄茶点前が終わり、緊張感もゆるゆると融けて、月明りの中、庭先の石のテーブルでコーヒー点前をリクエストしました。
こちらの道具組もお点前も斬新でした・・・。
風流な風炉(?)と釜から湯を柄杓でしっかり計って淹れてくださったコーヒーの豊潤な香りとまろやかな味、蝋燭の灯りに照らされた、爽やかな秋の夜のコーヒータイムが忘れられません。

茶の湯の原点に触れさせて頂いた、刺激的な茶会でした。
ありがとうございました!
お互い健康に留意して、お茶を楽しみましょうね。
今後とも末永くお付き合いくださいませ。


      播磨・コルトレーン茶会・・・その1へ戻る



  ワレモコウの残花・・・姫路・好古園にて

(忘備録)いままでに6回、Kさんの茶会へお邪魔しています。その感動を忘れないようにブログに一部書き留めています。よろしかったらご覧ください。

  1.思い出の茶事  一客一亭 2008年12月
  2.あこがれのJAZZ茶会(一客一亭) 2010年11月
  3.Jazz茶会ー2  Moon Bow  2013年10月11日
  4.「どくだみ茶会」-1  2014年6月6日 
  5.夕去りのたけのこ茶会・・・播磨にて  2016年4月19日
  6.播磨・コルトレーン茶会・・・その1   2018年11月2日


東寺の畔・炉開きの茶事へ・・・その1

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   仁和寺の紅葉をパチリ (2018年11月5日撮影)


京都在住の折
、共に自主稽古に励んだ茶友Yさまの茶事にお招き頂きました。

播磨・コルトレーン茶会の後にスウェーデンから帰国中のOさんとFさんをお連れしたく茶事をお願いしたのです。
月釜の開催でお忙しいにもかかわらず快諾してくださり、心から感謝しています。
京都を離れてからYさまの茶事は4年ぶりでしょうか

11月3日(土)、京都駅からタクシーで東寺の畔にあるYさま宅へ向かいました。
広い道からの曲がり角は覚えているのですが・・・心細い思いをしながら玄関横に置かれている水桶を見つけ安堵しました。
そこはYさまが小さな家を改築なさった素敵なお茶空間・・・茶事や茶会で人をもてなすだけでなく、茶の湯の修練の道場であり、ほっとする癒しの空間であり、きっとYさまにとって特別な場所なのだろうと思います。

玄関を入ると三畳の待合があり、壁床に掛物がありました。
「紅葉に山鳥」というような日本画ですが、色とりどりの紅葉が緑楓の中にひときわ鮮やかです。
一瞬、京都の大好きな紅葉名所(真如堂、栄摂院、南禅寺と塔頭・・・)が頭をよぎって行きました。


 「紅葉に山鳥」(・・・と勝手に名付けました。掬水画)

詰Fさんが喚鐘を3つ打つと、白湯が運ばれ、腰掛待合へご案内がありました。
染付汲み出しの白湯を頂くと、見込みに寿の字を発見・・・もしや炉開きのご趣向かしら? 期待に胸が膨らみました。
炉の準備だけは済ませて旅へ出ましたが、11月初めの茶事は風炉か炉か微妙なところです。

腰掛待合で待ちながら、最初に伺った茶事から歳月が経っていることを実感しました。
露地の様子は変わりませんが、杉苔が青々と伸び、フトイが太く長く成長していました。
ご亭主が向い付けに出られ、一同、無言の挨拶を交わします。


 待合の煙草盆・・・火入の灰形が美しく調えられて

4畳半の茶室に席入りすると、炉にどっしりと大きな釜が掛けられ、濡れた釜肌が目に飛び込んできました。
炉の時季の一番の御馳走です。
「きっと炉開きのご趣向だわ!」はやる心を落ち着かせながら床を拝見すると、「う~ん・・・」一目で魅せられました。
   壽
の一字、余計なものが全てそぎ落とされた清々しさを感じる御筆、紫野 八十六翁 大綱とありました。
「表装は元のものではありませんが・・・」とご亭主。
紺地揉み紙、簡素な押風袋が寂びた御軸にぴったりと寄り添っていました。

点前座に廻ると始めて見る棚(こちらの道具組は濃茶の時に詳しく・・・)があり、麗しき濡れ釜をじっくり拝見して席へ着き、Yさまへお招き頂いた喜びを伝えます。


   阿弥陀堂釜と古材の炉縁

初炭が始まり、客3人がそれぞれの事情で目を皿のようにしてYさまの炭手前を見詰めました。
下京するとすぐに暁庵の教室の炉開きの会があり、Fさんが炉の初炭を担当、暁庵もまだ炉の炭手前の稽古をしていません。
スウェーデンへ帰国前にOさんは今日庵の講習会で炉の初炭を見て頂くことになっているとか・・・。

すらすらと炭手前が進み、釜は阿弥陀堂、炉縁は松(?)の古材です。
炭斗は瓢、鐶は初めての釘鐶、羽箒は白鷹でした。
皆で炉を囲み、湿し灰の撒かれる様子、炭の置き方、羽箒の清め方をしっかり目に留めます。
香が焚かれ、すぐに薫りが部屋を馥郁と満たしていきます。
香合は丁寧な造りの萩焼・分銅亀、十二代田原陶兵衛作、香は黒方(薫玉堂)でした。


 乾山色絵竜田川図向付 (MIHO MUSEUM提供)

初炭のあと、Yさま手づくりの懐石が出され、どれも期待通り美味しく頂戴しました。
器も素敵でした・・・鯛昆布締めを乾山写の鮮やかな色絵竜田川図向付で頂き、こちらもまさに京都の秋です。
本職が作ったような京風懐石に舌鼓を打ち、特に蟹真蒸の煮物椀と炊き合せ(いもぼうと菊菜)が絶品でした。
御馳走さま! (つづく)


      東寺の畔・炉開きの茶事へ・・・その2へつづく


東寺の畔・炉開きの茶事へ・・・その2

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    仁和寺の紅葉をパチリ (2018年11月5日撮影)

(つづき)
懐石の後に主菓子を頂き、待合へ中立しました。
主菓子は手づくり、下から水色、緑、ピンク色に染まる竿もので、銘「竜田川」・・・頂戴するのが惜しいような風情でしたが、しっかり頂きました。

銅鑼が打たれ、後座へ席入りすると、床の御軸「壽」は炉開きの花に変わっていました。
掛け花入に紅色の嵯峨菊とツワブキが清々しくいけられています。
飴色と黒が混じりあう景色の花入は醤油壺、膳所焼とのことでした。



点前座に廻ると素敵な棚があり、初めて見る表千家流の旅卓(たびじょく)です。
中棚に優美な赤絵の小壺、下段に灰青色の水指、「あらっ!大好きな虫明焼かしら?」と眺めていると、唐津焼とのことでした。
白い象嵌の2匹の鶴が前向きと、裏に後向きで居るのも炉開きにぴったりです。


  旅卓・・・水指と薄器の取り合わせがステキ!です

火相も湯相も好く、いよいよ濃茶点前がはじまりました。

 「(前略)・・・茶事でお迎えするのは5年ぶりでしょうか
  懐かしく思い出しております
  相も変わりませず進歩しておりませんが
  心を込めて御茶一服差し上げます・・・(後略)」

頭の片隅で頂いたお手紙を思い出しながら、お点前を見詰めます。この緊張感ある時間が大好きです。
仕覆を脱がし、袱紗を捌き、茶入や茶杓が清められていくと、お点前するご亭主も見詰める客も共に清浄無垢な世界へ浄化されるような心地がします。

Yさまが心を込めて練ってくださった濃茶、茶碗から匂い立つ豊饒な香りを味わいながら口に含むと、なんとまろやかな濃茶なんだろう!
口の中に甘みと旨味と僅かな苦みが広がっていきました。
最近は薄めの濃茶に慣れ親しんでいたけれど、しっかりと濃い、濃茶らしい濃茶を久しぶりに堪能した気がします。
口切の時季にのみ特別頒布の銘「無上」(柳桜園詰)をご用意いただいたそうで、恐縮でした。

茶碗は懐かしい高麗呉器茶碗、添えられた古帛紗がう~ん?・・・思い出せません。
呉須染付の茶入にぴったりの緑地着物裂の仕覆、
大徳寺形の貝先、時雨を思わせる茶杓は、大徳寺高桐院住持であった上田義山の銘「松風」でした。



濃茶が終わり、後炭です。
炉の炭の残り具合で、いつのまにか時が過ぎてしまったのを知り、
手際よく胴炭を寄せ、大きな輪胴から炭を置いていくYさま、頼もしくもあり日頃の修練の様子がうかがえました。

煙草盆、干菓子が運ばれ、薄茶になりました。
干菓子も全部手づくり、果物3種(栗、イチジク、葡萄)を煮たり、コンポートして乾燥したり、琥珀糖に漬けたりされたそうで、個性的でオシャレな干菓子でした。

時代のある茶箱が運び出され、茶箱・月点前で薄茶を頂きました。
炉の茶箱点前は初めてですが、何やら風流な炉開きとなりました。
それもそのはず、ヘギ目の茶箱の蓋裏に
  月雪花・・や
   三乃友      圓能斎
とありました・・・。

今回は幸運にも炉開きの御茶を賜り、心から御礼申し上げます。
ありがとうございました!
「相も変わりませず進歩しておりませんが・・・」とんでもございません。
Yさまらしい渾身のお茶事で、完成度が凄い!です。
相客のOさんとFさんもきっといろいろなことを学び、刺激を受けたことでしょう。
正客としてご亭主の思いをどれほど受け止められたか疑問ですが、これに懲りずに月雪花の時季にもお声掛け下さると嬉しいです。

遠いですが、暁庵の茶事や茶会へもお運びくださると望外の喜びでございます。
これからもどうぞ宜しくお付き合いくださいませ。 


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