
我が庵は・・・・富士の高嶺を軒端にぞ見る (10月10日 展望台にて撮影)
(つづき)
・・・後座の床の佇まいが忘れられません。
ススキ、照葉、竜胆が露に打たれ、まるで秋野のまっただ中に居るようでした。
しばしこのままでいたい・・・・。
また花入がステキで・・・・どっしりとした落ち着きの中にも幽玄さを漂わせ、秋野に咲く花を一段と引き立てています。
あとで伺うと、この花入は遠く朝鮮・新羅時代の壷だそうで、底の欠け部分を補うために特製の黒檀の台が作られていました。
N氏も数十年前に購入以来はじめて使ったそうですが、形と言い、濡れた胴肌の変幻の妙と言い、拝見していると古壺の中に吸い寄せられるような魅力(魔力?)を感じました。

主菓子が二段重ねの陶器に入れられて運ばれてきました。
菓子銘は「小佐女菊(こさめぎく)」・・・小雨に濡れた菊の花の意匠だそうで、御殿場・虎屋製です。
丁寧に作られた菊の花びらが美しく、大好きな天才陶芸家・鈴木五郎造の織部の器にぴったりお似合いです。

濃茶点前が始まりました。
荘られていた濃茶器の仕覆が脱がされ、茶入、茶杓、茶碗と浄められていくご亭主の動きを一同心静かに見守ります。
やがて茶香が漂い、濃茶が古帛紗を添えて出されました。
美味しい濃茶でした・・・。
口の中に「小佐女菊」の甘みが仄かに残っていて、しっかり練ってくださった濃茶のなんとまろやかで豊潤なこと!
一段と腕を上げられたご亭主の精進ぶりを嬉しく思いながら頂戴しました。
濃茶は「嘉辰の昔」(上林詰)です。
茶碗は十文字の割り高台が印象的な萩焼茶碗(清玩造)、古帛紗は雲龍文金襴でした。
茶入は小ぶりの古染付、呉須で山水画と漢詩が描かれ、風流な詩の世界へ誘います。
夜半瀟声
至客舟
古染付の茶入と飴色の象牙蓋を拝見して、この茶入を慈しみ使っていた数寄者たちに想いを馳せました。
どのような方が遠く中国へこれを注文し、どのような茶事に使われたのでしょうか?
仕覆は茶地さや形華文緞子です。

最後に茶杓について書いておきます。
煤竹の茶杓は銘「軒端(のきば)」、淡々斎自作(鵬雲斎箱書)です。
すっきりした端整な作りで、露が見慣れた淡々斎形ではなく丸形なのも興味深く拝見しました。
銘「軒端」は歌銘で、
我が庵は 松原つづき海近く
富士の高嶺を 軒端にぞ見る 太田道灌
その歌をもじり、ご亭主は
我が庵は カラマツつづき山近く
富士の高嶺を 軒端にぞ見る
・・・・冬になると木々の葉が落ちて、ベランダから富士山が見えるそうです。
八ヶ岳山荘の茶事に寄り添うような茶杓「軒端」に大いに感じ入り、いつの日かここで再会したいもの・・・と秘かに願ったのでした。
続き薄茶となり、薄茶と干菓子を頂きながら夢のような時を過ごし、16時過ぎに山荘を辞しました。
今夜はペンションに泊まり、夕食をN氏もご一緒して茶談義(おしゃべり?)がまだまだ続きます・・・皆さまの感想を聞きながらワイン(ジュース?)を傾け、部屋でFさんの漫談(?)を聞くのも楽しく貴重な時間でした。
翌日、編笠山中腹の展望台、「夢宇谷(むうだに)」という摩訶不思議なギャラリー、「八ヶ岳倶楽部」などに連れて行っていただき、充実した2日間でした。

宿泊したペンションです
ご亭主N氏のステキなおもてなしに心から感謝しつつ筆を置きます。
Fさん、Uさん、Kさん、2日間大変お世話になりました。
皆さま、ありがとうございました。

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