桜は去ってしまったけれど、どこもかしこも花盛り。冬の寒さをじっと耐えて今を盛りとばかり、たくさんの花が咲き誇っています。
亭主Kさんは、季節がめぐって来ると無心に咲く花の命をいとおしく感じて、お軸を掛けました。
百花為誰開 (ひゃっか たがために ひらく)
たくさんの花が競うように咲いているけれど、どの花も誰かのためではなく、季節になると自然に無心にただ咲いている・・・そんな花に励まされ、コロナ禍でいろいろ変化せざるを得なかったKさん自身の生き方を重ねられたそうです。
「先生、このお軸を掛けてお茶事をしたいと思います」
・・・それで「百花の茶事」と名付けました。お軸は前大徳、足立泰道老師の御筆です。
待合に「新 佳気」の色紙、書道をなさっているKさん自筆で、今日の茶事に掛けるご亭主の気合が感じられます。
4月18日(日)、昨夜の風雨が嘘のように晴れ渡り、新緑の露地で迎え付け、お客さまと今頃どんなご挨拶が交わされているのかしら?・・・あれこれ水屋で想像しながら、半東KTさんにKさんのサポートを託し、安心して懐石の支度にかかりました(しかし、今回も余裕がなく懐石の写真はありません・・・)。
初炭、懐石と、いろいろなことがあり、その時々に乗り越えながら進行していきました。
「百花の茶事」の後座になり、銅鑼が5つ(大・・・小・・中・中・・・大)と、間合いも音色も好く打たれ、後座の席入りです。
後座の花は、お客さまに生けて頂く「花寄せ」の趣向です。
前日集められた花が花台にいっぱい載せられ、お正客さまから順次花入を選び、花を選んで生けていきます・・・花を愛でながら、濃茶と薄茶を楽しんで、明日への活力を育んでいただけたら・・・と。
濃茶はもちろん各服点、丁寧に練られた濃茶は「星授」(星野園詰」です。戻ってきた茶碗の様子で練り加減や濃さが程よく、丸く美味しかったであろうことがわかり、半東KTさんと密かに喜んでいました。
濃茶と薄茶の茶碗をお客さまに合わせて選べるのも各服点の良さだと思います。小さめの茶碗を濃茶に選び、5人分の濃茶に使っていた大ぶりの茶碗を薄茶用にするなど、今までの茶碗の選び方と発想や価値観を変えてみました。
茶杓は銘「無心」、妙心寺・山田無文師の御作です。
Kさんは山田無文師の書が大好きだそうで、さらに、銘「無心」から良寛さんの次の言葉を連想して「百花の茶事」にこの茶杓を選んだのでした。
花は無心にして蝶を招き
蝶は無心にして花を尋ねる
薄茶になり着物に着替えて、お席にご挨拶に出ました。
お客さまが生けてくださった花に彩られた床を背景にして(亭主床なので・・)、Kさんは優雅に落ち着いて2服目の薄茶を点てています。4名のステキなお客さまとの茶事の様子がいろいろ想像されましたが、皆さま、長時間のため痺れが出ているご様子・・・・水屋からKTさんが薄茶を2碗運び出したので、早々に黒子は退散です。
見送りを済ませ、無事に「百花の茶事」の終了となりました。
身を乗り出すように、いつまでもお客さまを見送っているKさんの姿が脳裏に残っています。
たぶん緊張して無我夢中だったと思うけれど、最後まで立派に「百花の茶事」をやり遂げられたKさんに心から拍手を送ります。
「百花の茶事」を記念して会記を記します。
待合
床 「新 佳気」 亭主自筆
本席(初座)
床 掛物 「百花為誰開」 (碧厳録) 足立泰道筆
釜 又陰口透木釜(8代又玄斎一燈好み) 菊地政光造
透木 桐 3代宗旦好み
棚 吉野棚 (円能斎お好み)
水指 桶川 御室窯 橋本喜泉造
初炭
炭斗 常盤籠 和田青竺作
羽根 シマフクロウ
灰器 信楽焼 楽斎造
香合 鐘(三島) 山寺焼(立石寺にて)
本席(後座)
花寄せ
花 コデマリ、三葉躑躅、射干、ギボシ、山吹、モミジ、紫蘭、都忘れ、苧環など
花入 ①掛け花入(揖保川焼 池川みどり作) ②微塵唐草染付(伊万里) ③粉引き旅枕
④鉄製燈明台(白洲正子好み) ⑤ガラス花入(コスタボダ製)
濃茶
茶入 肩衝 萩焼窯変 岡田裕造 仕覆 織部緞子
茶碗 主 御本・青磁雲鶴 銘「玉箒」 権十郎(逢雪)歌銘の箱書
替 黒楽 大樋 御本・三島
茶杓 銘「無心」 山田無文作(妙心寺)
薄茶
棗 花兎蒔絵大棗 村田宗覚造
茶杓 濃茶と同じ 銘「無心」
茶碗 主 赤楽 光悦「毘沙門堂」写 祥悦造
替 萩焼 京焼「薔薇」 京焼(押小路窯)「花篭」
蓋置 五徳 菊地正直造 建水 赤膚焼 大石正人造
濃茶 「星授」(星野園詰) 薄茶 「池の白」(星野園詰)
主菓子 「二十日草(はつかぐさ、牡丹の別名)」(石井菓子舗製)
干菓子 「清香殿」(大宰府・藤丸製) 「吉野懐古」(吉野松屋製)
干菓子器 独楽盆 象彦製
(以上です・・・ ホッ!)