
(点前座の設え・・・茶事後に撮らせて頂きました)
(つづき)
初炭で炭が置かれ、熾る音を聞きながら、松花堂弁当と煮物椀を美味しく頂きました。
まもなく燗鍋と杯台が運び出され、正客Hさまから順に朱杯を下から取っていくのですが、その朱杯には干支が書かれていて、ご亭主が推理した干支が当たっているかどうかを巡り、座がざわめきました。
違っている場合は自己申告して、自分の干支の朱杯に変えてもらい、結局全員の年齢がばれてしまって大笑い・・・こんなご趣向も楽しいですね。
主菓子は銘「秋のたより」、オレンジとクリーム色の練きりの中に栗餡がしっとりと絶品でした。
薄(せんべい)と芋名月の干菓子と共に打出庵大黒屋(横浜市中区日ノ出町2-121 )製です。

浜木綿(はまゆう)の実 (季節の花300)
先ほどの南国系植物が実る腰掛待合へ中立しました。
後入りの銅鑼が5点打たれ、静かに心に染み入る音色にご亭主の精進ぶりを嬉しく思いました。
席入りや 銅鑼の響きに魅せられて
浜木綿みのる腰かけを立つ 暁庵
後座の床には、秋野に咲き乱れる花が鷹餌籠(たかえかご・尚古斎造)に入れられています。
矢筈薄(鷹の羽ススキとも?)、白萩、竜胆、杜鵑、紫式部・・・壁にたっぷり露が打たれて・・・。

いよいよ濃茶です。
白楽茶碗が運び出され、客一同、息を詰めるようにご亭主の点前を見詰めます。
若草色の袱紗が捌かれ、サラサラと流れるように茶入、茶杓、茶碗が浄められ、一同点前に吸い込まれていきました。
・・・・その時、玄関のチャイムがピンポーンと鳴りました。
宅配便が届き、ご主人が受け取りに出ましたが、まさしく家庭茶事たるところであり、これを含めて亭主、客の心の在り様を試される時でもあります。
まぁ~・・・家庭茶事に限らず、茶事中にハプニングは付き物で、それらをいかに切り抜けるかが、ご亭主の腕の見せ所(?)でもあります。
頼もしきご亭主は少しも動ぜず、緊張感を保ったまま点前を続けています。
やがて馥郁とした香りが漂い、茶碗が出されました。
手取りも軽く、深くたっぷりとした白楽茶碗に濃茶の翠が美しく映えています。
濃さも程よく、よく練られた濃茶を美味しく頂戴しました。
濃茶は「瑞世の昔」、宇治・碧翠園詰です。
正客Hさまから茶碗についてお尋ねがあり、きっとご亭主はこの瞬間を待っていたことでしょう。
茶碗はスウェーデンお茶の旅でご縁のあった(お宅まで押しかけた?)陶芸家・藤井エミさんの作品でした。
形も好くたっぷりとした白楽茶碗です。
白い釉薬に黒釉の景色が好い具合に映え、同行した暁庵には藤井宅の白壁に描かれていた水墨画の風景のように思えました。
ご亭主は藤井エミさんとの不思議な出逢い、白楽茶碗との出合いを愉しそうに語っています。
銘「白夜」と名付けたそうで、「白夜」の国・スウェーデンでのステキな「旅の思い出」にぴったり!です。
続き薄茶になり、樺細工(ストックホルム)の煙草盆にガラス銀彩阿古陀形の火入(南仏プロヴァンス)、中国製漆器らしき煙草入(ストックホルム?)など次々と「旅の思い出」グッズが登場します。

ご亭主の点てる薄茶がとても美味しく、皆さまで交わすお話が盛り上がり、茶碗をかえて2服も頂戴しました。
茶碗は、韓国の旅で出合った「魚屋(ととや)」(山清窯のミン・ヨンギ造)と三島茶碗(京焼)でした。
随所に散りばめられた「旅の思い出」の茶道具に話題沸騰・・・皆様からあれこれ尋ねられ、きっとご亭主は嬉しい悲鳴だったことでしょう。
最後に、茶器と茶杓について記します。
正倉院裂の写しでしょうか、エキゾチックな模様の仕覆が脱がされると、ワイン色の花模様が浮ぶガラス茶器が現われました。
エミール・ガレの作で、伸びやかな花模様はアンコリー(西洋オダマキ)だそうです。
ふむふむ、この茶器に合わせて若草色の袱紗にしたのかしら・・・ご亭主の心入れが嬉しく伝わってきました。
味わい深い茶杓は銘「一如」、紫野・剛山和尚作です。
いつも一から・・・基本から・・・初心を忘れずに・・・いろいろなことを考えさせられる茶杓で、ガラス茶器と共にまたのお茶事でお目にかかりたいものです。

茶事後に縁の下の力持ち・ご主人さまが淹れてくださった紅茶で乾杯(?)し、Fさま宅を後にしました。
Fさまとご主人さまの心温まるおもてなしに厚く感謝いたします・・・。
五葉会の皆さま、愉しくお相伴させて頂き、ありがとうございました!
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